フィンランドの教育はなぜ世界一なのか
たまたま本屋で手にして買ってみたら、とても面白かった。
この本とコロナの影響が少ない北欧の事情に比して、新自由主義経済を闊歩してきた大国のダメージは大きい。そのことはまた別の記事にするつもりだ。
この本は概ねフィンランドのシンプルで安全な教育事情を紹介しつつ、フィンランドの歴史的背景なども紹介し、日本の厳しい実情と比較する構成だ。言うまでもなく国の事情が違うのでフィンランドが良くて日本が悪い、という短絡的な話題にはならない。
8章から構成される本書で最も読み応えがあるのはなんといっても「第一章 フィンランドで親をやるのは楽だった」という部分だろう。まず出産に手ぶらで病院へ行く、というエピソードで、ご自身が親の介護のときに大量の荷造りをして病院へ行った経験から、念のためボストンバックを持って行ったら、結局一度も開けることはなかった、という導入部がとてもわかりやすい。ありとあらゆることがケアされている、ということを示している。
文中よく目にするキーワードとして「ウェルビーイング」という言葉がある。最終章で”日本の親は子供のために我慢を強いられる。”という思想だが、フィンランドでは常に子供中心に”よい行動(ウェルビーイング)”となるよう仕組みが作られているということが示される。
そもそもフィンランドでは子供の権利が強く保護されていて、”いじめ”という行為には「キヴァ・コウル(KiVa Koulu)」という教育プログラムで国家的に取り組んでいるらしい。例えば大人が子供に対して言ってはいけない言葉として「私も子供の頃いじめられたけど大きくなって影響はなかったわ。」というような、自身の経験と感覚に照らして子供のいじめをジャッジすることは許されない。最近申告なSNSなどの書き込みで自殺するというケースに対しても、かなり慎重且つ丁寧に対応することが義務付けされているようだ。
第五章 「考える力」を育てる
という章で、フィンランドの教育が”学校に行く”ことを目的としておらず”学習をする”ことを義務付けていて、ホームスクールというプログラムもあることが詳しく説明されている。ここでまた親が子供に言ってはいけない言葉のいくつかで
「あなたのおかげで自分のことができないわ。」
「あたしにできなかったことを、あなたにはしてほしいの。」
「お兄ちゃんはできるけど、あんたはダメね。」
身に覚えのあるようなセリフがこの国の教育では禁じ手となっている。
これは国家が教育を保障する意思によるもので、日本と単純比較はできない。フィンランドでは学習意欲のある子供の学費を国家が保証して援助しているので、親の経済力に関係なく教育を受けられる。6人に一人の子供が貧困化していて、OECD加盟国の中で教育支出が最も低い日本とは比較するレベルではない。
日本はもはや将来のない国ナンバーワンである。従ってフィンランドと比較しても無駄である。ただ、子供の教育だけでなく、北欧各国がリカレント教育にも力を入れている、という話しもあり、国家にとって”教育”がどれほど重要であるかを示す指標にはなる。日本は教師が尊敬される仕事ではなく奴隷のように働かされる低い立場の職業に陥ってから、国力を喪失している。教える側に自負心がないのにまともな子供が育つ可能性はあるまい。明るい未来を想像できない教師から子供は何を学べばいいのだろうか?