dalichoko

しょうもない

世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ

映画として優れた作品だった。日本映画は衰退の一途を邁進し加速させているが、このドキュメンタリーという分野である種の可能性を残しているように思える。

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これは素晴らしい映画だった。日本映画だ。プロデューサーは大島渚監督の次男大島新氏。感動で涙が止まらない。『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』。
ムヒカを題材としたドキュメンタリーはいくつか作らているが、これは日本人をターゲットにしている。

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映画としての感想はほかのブログに書いたので、ここではムヒカが主張する物質社会への問題提起を題材にしたい。

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2012年の国連の議題は「人間はどうしたら、これからも発展しながら地球環境を守っていけるのか?」で、どの国もありきたりできれい事のような演説を並べる中、会議の終盤、がらがらになった記者席に名もなき国の名もなき大統領が壇上にノッしと現れる。
 
そして・・・
 
「もしドイツ人がひと家族ごとに持っているほどの車を、インド人もまた持つとしたら、この地球はどうなってしまうのでしょう?私たちが呼吸できる酸素は残されるのでしょうか。」
 
このひと言で、会場は凍りつく。そして記者席で囁きが始まり、彼の言葉は一気に世界に拡散してゆく。彼はこの後、この国連会議の議題である”発展”というテーマそのものを否定し、物質社会の発展と地球環境の幸福は両立しないと断じる。
 
演説の全文 はネットで読むことができる。
 

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わかりきったことだが深刻だ。 


思い起こせば、世界が発展するのに反比例して経済に不穏な空気が漂い始めたのは中国共産党の開放政策が推進されてからだ。世界のGDPが中国に依存することで、地球環境は大いに混乱し始めた。しかし違う。中国よりも先にもっと贖罪を受けるべきアジアの国があるだろう。


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日本だ。
 
ムヒカは自分の演説が絵本になった日本を訪れる。そして彼の鋭い分析が日本を貫く。日本の文化に敬意を示しつつ、戦争を境に西洋化を進め、経済競争に勝とうとしたことで日本らしさを失い、その効果は世界を巻き込んで環境を貶めたのだ。

そうだ、日本はいま中国や他の後進国あるいは元後進国を見下ろして涼しい顔をしているが、実は工業的な発展と環境破壊の先頭をアメリカとともに進めてきた国のひとつなのだ。西洋化が日本に訪れたことで世界環境を悪化させたのだ。

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ムヒカは日本の高度な発展に目をみはりながら、反面、日本人が本当に幸福かどうかを問いかける。映画は最期にムヒカが妻とともに日本人学生への問いかけをするシーンで終わってゆく。未来ある若者へ。日本の低い投票率。まだ残るジェンダー、男尊女卑思想。そうした内面の遅れた部分を見せかけの技術革新や高い競争力で補ってきた規律性を評価もし卑下もする。 

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もはや世界は物質や金融の余剰を貧困者に回帰させる手段を持たない。貧しさは死を意味する。社会主義者のムヒカの言葉には、主義主張を超越して地球を守ろうとする意思を感じさせる。彼は素直に「もう手遅れかもしれない」と言いながら小さな”希望”を若者に託す。ウルグアイの革命に力を注ぎ、刑務所に何年も牢獄される壮絶な経歴で、妻ルシアとの間に子供がいない。だからこそ日本の若者や自国の子どもたちに未来を託そうとしているのだ。残された少ない人生をかけて。
 
 
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