dalichoko

しょうもない

ザ・ホワイトタイガー The White Tiger

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まず俳優のことだが、主人公のアダーシュ・ゴーラブはまだ日本では無名の若手だが、ミュージシャンだ。映画の中では彼の音楽的才能が少し垣間見えるシーンがあるが、そこはこの映画の軸ではない。この映画を通して一人の若者の複雑な人生を見事に演じている。そしてこの主人公を脇で固める俳優がとにかくすごい。海外留学経験を経て親の仕事を手伝うはめになる大富豪の息子を演じるのがラージクマール・ラーオ。見覚えがあると思ったら、このブログでも紹介した『LUDO ~4つの物語~』に重要な役で出ていた。そしてなんといってもプリヤンカー・チョープラー。まさかと思ったら本当に彼女だったので驚いた。ボリウッドの大スターシャー・ルク・カーンとの共演でトップ女優となった彼女は今やインドで最も稼ぐ女優だ。ディーピカー・パードゥコーン主演の『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』が懐かしい。

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良くも悪くもこの映画は彼女が大きなポイントとなっている。映画の冒頭でマハラジャの格好をした主人公。酒に酔って運転する彼女の大富豪のドラ息子。その彼女が運転する車が・・・・

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という強烈なシーンから始まり、ドラマは主人公のセレブ青年が中国の温家宝首相(当時)のメールを送るシーンで回顧されてゆく。世界最大の人口を誇る中国に、世界第2位人口のインド人がすり寄ってゆく。ここではすでにアメリカは無視されている。あくまでも経済大国としての道を突き進む中国の下請け(アウトソーシング)を狙う。貧しい村で虐げられた日々を送る主人公のサクセスストーリーではあるが、ことはそう簡単ではない。貧しさから脱する過程で、インドという国がどういう国であるかが問われてゆく。世界で最も民主的な国、という言葉が空回りする。貧しくても犯罪が起こらない国インド。

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インドのカースト制度を極めてわかりやすく2分類するあたりが面白い。腹が出ているか出ていないかが貧富の見分け方だ。そしてインドの99%以上が鶏のようにカゴの中で生活しているから、カゴの外に出されても何もできない。犯罪的なことを考えるゆとりもなく死んでゆく。主人公は自分がどうしたら金持ちになって大家族を養えるかを考えるが、そこにはインドの大きな格差という壁がある。彼は子供の頃から学問ができて、教師から”ホワイトタイガーだ”と言われ、自分の才能をそれなりに信じている。

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ここは見ていて胸が痛くなるところだ。まるで日本と同じ。なんら変わりない。インドが都市化と中産階級化を進める過程と、そのジレンマに陥っている日本はコインの表と裏だ。いま日本が貧困国の最先端にいることをほとんどの日本人は知らない。まさにこの映画の鳥カゴ現象と同じだ。この”気づかない”ことをいいことに、富豪はどんどん腹を膨らませ、貧しき人々はどんどん貧しさに慣らされてゆく。この映画は今の日本をくっきりと示している映画なのではないか。

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映画は終盤に向けてどんどん恐ろしくなってゆく。運転手として雇われた主人公がどんどん富豪の社会を覗き見する。そして政治家との関係を垣間見る。社会主義者として当選した女性候補者への献金など、金が金を生むメカニズムに気づいてゆく。しかし自分は犯してもいない罪を被せられ、どん底の生活を延々と続ける。これはまるでドストエフスキーの世界だ。そして富豪のドラ息子と重なり合ってゆく主人公の同期性は『太陽がいっぱい』のリプリーをも連想させる。

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どうだろう。
ここまで書いてこの矛盾だらけのドラマを否定できない自分が存在している。
もはや世界は格差や偏見を通り越してカオス(混沌)の渦に巻き込まれているように感じる。その象徴としてインドの都市(デリー)で起きる複雑なドラマは、”人の命”のことを忘れさせてしまうような強烈なメッセージを吹き込んでいる。そうだ、この映画で本来最も語り尽くされなければならないことは”命”のはずだ。しかし札束の前に見る側もそれを忘れるほどの繁栄が最後に主人公を覆うのだ。
 
これは恐怖映画というべきだろう。
(=^・^=)
 
 
 
 

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