dalichoko

しょうもない

嫌われた監督 鈴木忠平著 文藝春秋

日刊スポーツのドラゴンズ担当記者の著者が書いた、落合博満氏がドラゴンズの監督だった8年間を事細かく書き上げた感動の大作だ。

f:id:chokobostallions:20211205053950j:plain

この本は落合さんの本でありながら、著者の成長を物語る一人称の作品とも言える。そしてここに書かれる落合さんの言葉は、これまで報道などで聞いてきたものとはまるで感じ方の変わるものだった。
「恥をかけ」という落合さんの言葉が冒頭に書かれる。この言葉は記者である著者の成長を助けるひとことだ。

f:id:chokobostallions:20211205054320j:plain

懐かしいメンバーのストーリーが重ねられていて、どの話も涙なくしては読むことができない。名古屋には仕事で住んでいたが、それほどドラゴンズに思い入れのない自分でも、いくつかのエピソードは涙を誘う。
ずっと秘密にされた川崎憲次郎開幕投手までのエピソードや、立浪選手からレギュラーを奪うために森野将彦を刺激したエピソードなどは特に感動する。落合監督は自らの天才的な打撃というキャリアとは裏腹に、徹底的な守りの野球を貫いたことも描かれる。落合さんの徹底した姿勢、揺るぎない姿勢の背景には、
「スポーツは強い者が勝つのではなく、勝った者が強いのだ。」
というひとことはリアルだ。人気か結果かという問いに、中日球団の首脳は入れ替わるごとに方針を変える。しかし落合さんの姿勢にはゆるぎがない。頑固とも違う理屈にあったゆるぎない姿勢が貫かれている。コーチ陣に対しても、
・選手が聞いてくるまで教えるな。
・選手と食事に行くな。
・絶対に選手を殴るな。
という指導者の三原則は、プロとして当たり前といえば当たり前のことだろう。しかしこの規律を守ることができない、いかにも日本人としての弱さを示すコーチは時として粛清される。そして落合さんの判断は説明もなく結果を伝えるという手法だ。だから誤解も生まれやすい。

f:id:chokobostallions:20211205055333j:plain

著者はドラゴンズ付きとなってから、徹底して「ひとり」で落合さんにぶつかる姿勢を貫く。そのことが落合さんと落合さんの夫人にも理解が及んで、この本に書かれたようなしられざる内容を聞き取ることができたようだ。
ドラゴンズが日本一になった2007年の山井投手交代という事件についても、あれから様々な憶測や本人証言などで、山井本人が交代を申し入れたとなっているが、それはちがう。落合さんは勝つために落合さんの意思で完全試合目前の山井を交代したのだ。
落合さんが映画好きだ、というエピソードもユニークだが、特に『エアフォース・ワン』のテロリストを演じたゲイリー・オールドマンのセリフの引用は重い。「何が正義だ。お前ら石油の値段を下げるためだけにイラク人を10万人も殺したじゃないか!しかもお前らが持ち込んだ自由という伝染病のせいで俺たちの街はチンピラだらけになって、挙句の果てのお前らが何もかもを奪っていくんだ。
和田一浩がチームプレーで右打ちをすれば「自分から右打ちするな。勝たせるのはこっちの仕事だ。」といい、井端と荒木のコンバートも「お前らボールを目で追うようになった」と指摘する。同じことは立浪に対しても言えることだ。
落合さんは選手に「自分のためにプレーしろ。」というプロとして当たり前のことを浸透させた。そして徹底的な守り。打撃はせいぜい3割だが守備は10割を目指せる、という確信が強いドラゴンズを築いたのだ。
しかしそのことは必ずしも球団の利害と一致しない。そして落合さん退任後の体たらくは言うまでもない。
プロをプロとして明確に位置づけ、”勝つ”ということに徹底してこだわった落合博満という偉大な指導者を見事に掘り下げた傑作であった。心から感動した。
 
 

dalichoko FC2 - にほんブログ村

貼りました。みつけてみてくださいね。

にほんブログ村 グルメブログ 日本全国食べ歩きへ

にほんブログ村 旅行ブログ 歩く旅へ

ブログサークル
ブログにフォーカスしたコミュニティーサービス(SNS)。同じ趣味の仲間とつながろう!