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しょうもない

ロスト・ドーター マギー・ジレンホール

ちょっと長いですよ。しょうもないブログで、いつもすいません。
 
 
イタリアの匿名作家エレナ・フェッランテの『ナポリの物語』を原作とする長編からマギー・ジレンホール(ジェイクの姉)がメガホンを取った母性のドラマ。オリビア・コールマン、ダコタ・ジョンソンジェシー・バックリーらの名優による素晴らしい演技が衝突(まさに衝突)する。おだやかなギリシャの舞台とは裏腹に、内面に抱えた母性あるいは親としての本能を喪失した女性たちの切実な叫びが聞こえる。ひりひりするような痛み、もやもやした不安が常に親(特に母親)には秘められている。『ロスト・ドーター
たまたまだが、ジョージ秋山さんの『聖書』シリーズを読み始めて苦戦している。しかし、この映画を見ると旧約聖書の部分が引用されていることに気づく。”姦淫するなかれ”という教えや”蛇”にまつわるエピソード。オレンジを切るときに娘たちが”蛇”のように、とは聖書の中でさかんに罪の象徴として出てくるようだ。話題はそれるが、ジュリエット・ビノジュの『アクトレス』という映画にもあるとおり、蛇が時として女性の象徴としても示される。
その意味でこの映画はまさに母性の喪失を描く。主人公のレダ・カルーソは自らの喪失した母性から開放されるべくギリシャに一人旅をするが、旅先で彼女の周りで起こることが彼女の孤独を邪魔する。そして自ら失った過去がよみがえる、という構成と展開。
母性に限らず、人類が生まれた子供に対する愛情を失い、聖書で禁じられた姦淫を求めるというアンビバレンスな状態を抱える女性の苦悩。ここまで女性であり母親である女性を苦しめる人類の疎外と矛盾。惹かれ合いながら憎しみを覚える関係の恐怖をこの映画は伝えようとしているのではないか。
このドラマに出てくる人形もまた深い意味がある。避暑地で行方がわからなくなった少女を探してあげる主人公はなぜかその少女が持っていた人形を盗み取る。そして自分の子供と過ごしたときの人形を重ねて苦悩の日々を思い起こす。これもまた聖書が偶像崇拝を禁じていることに対するアンチテーゼ。子供は親から疎外されていることから、人形に対する虐待とも思える落書きをする。親が子へ、子は人形へと憎しみの連鎖を拡大させる。これはまさに愛を失った社会における憎しみの連鎖だ。

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監督のマギー・ギレンホールは自らも『ダークナイト』などで女優として活躍する傍ら、このような見事な映画を監督する才能に恵まれている。思えば『ウォント・バック・ダウン』という映画で彼女は自らシングルマザーを演じ、学校教育に挑戦していた。この映画とは真逆の世界。
主演のオリビア・コールマンの演技は、ここでもとてつもなく素晴らしいものだった。他者を寄せ付けない内向的な女性。ややもすると狂気的だ。そして表情を一瞬にして変化させ、突然涙をボロボロ流しだすというすごい演技に挑戦している。彼女は声がいい。声というか発音というか、とにかく言葉が美しい。この映画も言葉を絞り出すような映画なだけに、彼女の口からでる言葉のニュアンスが映画を大きく左右する。思えばオリビア・コールマンは『借りぐらしのアリエッティ』のイギリス版でアリエッティの母親役を演じている。(日本版の大竹しのぶ)ほかにも『きかんしゃトーマス』の映画版やNetflixアニメの『ミッチェル家とマシンの反乱』(←これはすごい傑作!)でも重要な役で声を演じている。
避暑地で出会うダコダ・ジョンソンも素晴らしい。彼女の体当たりな演技にはいつも圧倒されるが、ここでも主人公のオリビア・コールマンが乗り移ったような毒母を美しく演じている。子育てと夫の世話をしながら全く違う男性に肉体関係を求める。主人公もまた同じ。ダコダ・ジョンソンはやはり『胸騒ぎのシチリア』が素晴らしかった。避暑地と彼女の美しさはよく似合う。彼女もまた俳優一家で育ったサラブレッド。ヒッチコックの『鳥』でブロンド髪が美しいティッピ・へドレンは彼女の祖母にあたる。父親は『マイアミ・バイス』のドン・ジョンソン。母親は恋多きメラニー・グリフィス。ことによるとこの映画の主人公とダコダ・ジョンソンは重なる面があったのではないか?
その主人公の若かりし頃を演じるジェシー・バックリーもまた素晴らしい。今年のアカデミー助演女優賞はこの人で決まりではないか。この映画で子育てに苛立ち、母性を離れ女性として夫以外の男性と関係をもつ女性。性欲の塊のような女性を美しく演じる。自慰をしていると幼い子供が邪魔をする、というシーンはリアルだ。彼女は『ジュディ虹の彼方に』でジュディ・ガーランドのアシスタント役を演じたり『クーリエ:最高機密の運び屋』で主人公の妻役を演じたのち、『もう終わりにしよう』という極めて難解な映画で主演を演じている。才能のある女性だ。ちなみにダコダ・ジョンソンとジェシー・バックリーは同い年。いずれも将来が楽しみな女優だ。
ほかにもなんとエド・ハリスが重要な役で登場する。この人が出てくると”何かしでかす”のではないかと思わせる。これもまたキャスティングの妙味で、エド・ハリスの存在はこの映画でとても重要。避暑地の管理人役の彼が主人公の荷物を運んだり、たまたまバーで出くわして彼女の相手をしたり、魚がとれたといって彼女の部屋を訪問したり、映画が終わるまで”何かしでかす”のではないかと思わせる。それだけで効果は十分で、主人公の女性の心理を必要以上に翻弄させる。しかし彼は結局何もしない。思わせぶりで終わる。これもまた男性の弱さ。齢70を過ぎたエド・ハリスも印象的な存在としてこの映画に刻み込まれている。
 

 
 

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