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しょうもない

英雄の証明 アスガー・ファルハディ

シネスイッチ銀座でアスガー・ファルハディの『英雄の証明』を鑑賞。初日の夜の会。ちょっと長いよ。
黒澤明監督の『羅生門』をベースとした映画を作り続けるアスガー・ファルハディの新作。世界の大御所監督となった彼の彼らしい映画といえる。このところ祖国を離れて映画と撮ってきたハルファディが久しぶりに祖国イランを舞台に撮った大傑作。カンヌでグランプリを獲得している。

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まず、
ハルファディの映画は片時も目をそらしてはいけない。小さなシーン、あるいは意味不明なシーンも必ずどこかで重要な意味をもたらす。冒頭で主人公のワヒムが刑務所から出てきてバスに乗り遅れる、というシーンも重要。そして遺跡発掘現場に義兄を訪ねるシーンで足場の階段を上るシーンが延々と映される。途中で白い鳩が飛ぶ。そしてやっとたどり着いで義兄と会った途端。「下りよう」と言われる。このシーンはこの映画の全てを象徴する。上がって下ろされるヒーロー。これがテーマだ。

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物語は簡単だ。高額の金貨が入った落とし物を届けた主人公がテレビの取材などでヒーローになるが、それを良く思わない人々が作り話だとか詐欺師だとか書き込むことでまたたく間にヒールへと転落する物語。ヒーローからヒールへ。見た目は同じ人物なのに、見ている側も彼を疑いたくなってくる。
イスラム社会というかイランというお国柄を知らしめる映画とも言えるが、落とし物を届けてテレビで取材を受けてヒーローになるとか、刑務所から気軽に外に出ることができるとか、刑務所に入ることが当たり前の国なのか?と思わせるシーンだとか、日本人としてはちょっと違和感があるシーンが多い。これはハルファディの功績で、過去の作品でもそのあたりのことを彼は遠慮なく丁寧に表現する。
主人公には姉の家に預けている息子がいて、この子は吃音でなかなかうまく喋れない。今回の作品ではここが最も象徴的だった。息子は一貫して父親が嘘をついていないと信じている。そして父親のワヒムも息子の手をとって、自分の無罪を立証するために奔走する。個人的にこの手を繋ぐ親子、という情景がとても印象的で感動した。刑務所にいる父親を信じて手を引かれて歩く吃音の少年。「おかんアート村」でも書いた『サマー・ウォーズ』が重なる。

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そして吃音の少年が懸命に父親の無実を伝えようとして伝わらない部分は、今年のアカデミー賞で作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』や濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』にもつながってゆく。自分の意思を伝える方法を持たない、あるいは欠けている人たちの向こう側でネット社会は凄まじい勢いで人を評価し見下したりする。
ラストシーンは息を呑む。絶対ネタバレできないが、このワンシーンに心が折れそうになる。刑務所に再び収監される主人公とすれ違いで出てゆく人物と・・・このシーンを延々と写して終わる。この画面の中で起きていることが世界中のあらゆる場所で起きている。正直に生きることの難しさは、西川美和監督の『すばらしき世界』や、古くは山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』や『遙かなる山の呼び声』までつながってゆく。そして聖書を読む人ならだれもが知っている”偶像崇拝”の怖さもまた底辺に潜んでいる。
西川美和監督のコメントはこちら。

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アメリカのアカデミー賞で起きたビンタ事件北方で起きている戦争も全てこの映画で説明がつくのではなかろうか。
 

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