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しょうもない

浜辺の彼女たち 藤元明緒

大島渚賞を受賞した藤元明緒監督の『浜辺の彼女たち』を鑑賞。技能実習生という名の奴隷のような生活から逃げ出す三人の若いベトナム女性の暗い話。


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映画や読書には連鎖反応が起きるときがある。この映画はたまたま先日鑑賞した『牛久』に向かう。不法滞在と不法労働は刑務所の中か外かの違いはあるが、同じ外国人である。社会の隅に追い立てられた外国人が見る日本、というテーマで一致点がある。あるいは『17歳の瞳に映る世界』も重なって見える。

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映画は技能実数生の実態を浮き彫りにしようという社会的なドラマとしては描かれていない。それはある種の現象であって、祖国を捨てて逃げてきた三人の女性の物語であり、最後はその中のひとりが決断を迫られるという内容。そこにメッセージ性があるわけではなく、社会から追い詰められた彼女たちの苦肉の策を描いている。

主人公のフェイのお腹に赤ん坊がいる、というくだりはありがちだが、超音波で赤ん坊の心音を聞くシーンは泣かせる。女性産婦人科医は手も足もある、などと詳細を説明し、最後に子供の心音を聞かせる。ここはこの映画で最も感動するシーンだ。命がけで逃げてきた彼女のお腹に宿る命。新たに生まれようとする命を思えば、祖国ベトナムを離れてきたときに、お腹の子供の父親となる人物のこともよぎるだろう。

彼女たちは過酷な実習生としての研修から逃げてきただけにパスポートもない。仕方なくブローカーの男を通じて偽造の身分証と保険証を作ってもらうが、もちろんタダではない。里に送金するお金を控えて、偽装書類にお金を払わざるを得ない。

この映画には音楽が一切使われない。だから、それぞれのシーンで起こるドラマも淡々と描かれてまるでドキュメンタリーのようだ。大島渚賞の受賞理由がもしあるとしたらここかもしれない。現実を現実以上にリアルに描く手法は見事と言わざるを得ない。評論家からは『ノマドランド』や『ミナリ』と肩を並べる世界レベルだという評もある。

たしかにラストシーンの描き方などは見事だ。長回しで撮る主人公のフェイは、お腹の子供をどうするか逡巡している。ほかの二人と会話することもなく、彼女は自ら決断を下す。しかし決断は言葉で表現されていない。彼女がベッドに横たわったまま、映画は暗転しテロップが流れ出す。しかし、テロップの最中に潮騒が聞こえる。エンドロールが終わりに近づく頃、その潮騒も消えて映画館は無音の状態を醸し出す。まるで子供の心音が消え去ったように潮騒も消えてゆくのである。この演出は見事だ。

黒沢清監督と大島新監督を交えて、藤元明緒監督のトークショーでも、このラストが絶賛されていて、藤元監督もここに最も力を入れたことを証言している。なんとこのシーンだけに2日もかけたらしい。

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心音というとボルタンスキーを連想する。彼の「心臓音のアーカイブ」は、真っ暗な通路に響く心臓音だけを響かせるというアート作品である。この音を身を以て聞けば、命の尊さを実感する。そしてそれは母性を思わせる内容だ。誰もが母親から命を分けて生まれてくる。

映画ではその命について考える物語になっている。そして強いメッセージはないが、その背景にある貧困や格差、そして日本の長く続くデフレなどが重なってくる。冷静になればなるほどこれらが人権に関わる問題であることを示しているのだ。

 

 

 

 

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