屋根裏の散歩者 江戸川乱歩
『屋根裏の散歩者』は、ある学生が主人公。何度かドラマ化もされているようだ。
何をやってもやる気が出ない学生は親からの仕送りで生活しているが、ある日引越したばかりの下宿の屋根裏を徘徊しはじめて、充実感を味わうようになる。そして同じ下宿で生活する性に合わない人物を殺害することに・・・
こういう語り口は江戸川乱歩独特の世界だ。
この本で最もページ数があるのが『人間豹』
神谷という社会人になりたての若い男が主人公だが、ある時彼が付き合うダンサーの女性が人間豹に殺される。そして中盤からは明智小五郎を主人公とするとんでもない展開に話が進んでゆく。どんでん返しに次ぐどんでん返し。先読みできない展開は読めば読むほど加速する。最後はちょっと驚きの大団円。果たして本当に明智は人間豹を倒したのか?謎に包まれたままバサッと終わりを告げる。
背景には武蔵野や高輪や浅草など、いろんな場所が次々と現れて、当時と今の風景の違いを感じさせてくれる。
「押絵と旅する男」は列車の中の話。
「恐ろしき錯覚」は恋敵へのリベンジ。
江戸川乱歩とかシャーロック・ホームズ、あるいはアガサ・クリスティの一連作品は学校の図書室に必ず並んでいた。そして友達と競って読み漁った日を思い出す。特にポプラ社の江戸川乱歩シリーズは表紙も迫力があって印象に残る。
祖母の家のそれこそ”屋根裏”のような部屋に、叔父や叔母(母方の姉弟)はよく本を買い与えてくれた。そして自分が持っていた本も与えてくれた。ボロボロに黄ばんだ本を丁寧にページをめくると、不思議な香りが漂っていた。あの匂い。
学校の図書では感じられない、誰かから譲り受けた古い本のなつかしさは、東京だと神保町の古本屋街で味わう世界だ。
それにしても江戸川乱歩。
この人の著作は、いまあらためて思うが内容は支離滅裂だ。どんどん人が殺されてゆく。そして殺し殺されることに躊躇がない。かといってハードボイルドな世界ではなく、少年探偵団のような子供の世界に殺人が重なるのである。よくこんな本を子供の頃読み続けたものだと驚くが、半世紀も過ぎて読み返すと、江戸川乱歩の小説に出てくる人物はある種の狂気に支配されている。それは現代人が抱える病理だ。実は内面的な狂気や病理は今も昔も変わらない。ニュースで狂気に満ちた犯罪が報道されるが、それは大正期のこの時代もそれほど変わらないのではないか。人の心には「誰かを殺してやりたい」という潜在意識がある。明智探偵や小林少年のような正義を振りかざす一方で、犯罪者の心理をつぶさに描いている点で江戸川乱歩のすごさを感じさせる。
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貼りました。みつけてみてくださいね。