dalichoko

しょうもない

日曜日の憂鬱

Netflix映画の脅威と恐怖を感じさせる。
過去の映画会社がとても資本を捻出しないような芸術系の作品に投資するセンス。アメリカ以外の国にも惜しげなく投資を繰り返し世界に波及するNetflix
 
スペイン映画のこの『日曜日の憂鬱』は、ことによると市場には出回らない映画だと思う。しかしこのクオリティは近年なかなか見られない。
 

f:id:chokobostallions:20201202055440j:plain

 
ホモ・サピエンスの涙』でも述べたが、音で毒された昨今の映画を否定するかのような静けさ。オープニングシーンのゆったりとした静けさ。大きな冬枯れの樹が二本並び、そこに薄っすらとテロップが見えては消える。このセンス。2つの大樹はなにかのの厳しい対立を想像させる。そうだアンドレイ・ズビャギンツェフの一連の映画のような厳しさ。『ラブレス』を思い出させる。
 

f:id:chokobostallions:20201202060042j:plain

 
ビジネスに厳しい老いた女性に突然”娘”と名乗る女性が現れる。そして母親アナベルに娘のシアラは、十日間一緒に過ごさせてほしいと求める。この娘はアナベルが捨てた娘だった。そして不思議な十日間が始まる。娘は自分を捨てた母親に何を求めるのか、というサスペンスになっている。
 

f:id:chokobostallions:20201202060531j:plain

 
まず映像技術の確かさを実感する。静かな美しい映像はどのシーンを切っても絵画になるようだ。画面というフレームを最大限に活かし、フレームの中の被写体を静かに長回しで見守る。そして画面のどこかに焦点を当てて、ゆっくりゆっくりと見る者が気づかない程度にズームしてゆく。タルコフスキーの映画を見ている心地よさ。この焦点を当てる対象が必ずしも人物ではないところがユニークだ。お湯を沸かす”ヤカン”がある。手前の人物がピンぼけで奥にある”ヤカン”にピントがあっている。そしてゆっくりとヤカンにズームしてゆく。お湯が沸く、というシーンに娘の怒り、欲求が秘められているようだ。
 

f:id:chokobostallions:20201202061048j:plain

大きな不思議な形をした樹を見つめる。これもまた美しい映像だ。そしてその樹には穴がある。その穴の中に声をかけ入ってゆこうとする夢のシーンなども美しい。この穴はまるで産道だ。その穴の向こうに親子の関係を連想させる。この穴の向こうの関係が、捨てられた娘と捨てた母親の関係なのか。
 

f:id:chokobostallions:20201202061422j:plain

十日間で二人は反発したり結ばれたりする。この関係こそ親子だ。娘の悪意で泥まみれになり、夜中にパーティへ出かける娘を心配したりする。音楽は静かだか、このパーティのシーンにかかるパンクに時代性を滲ませる。親子の不思議な関係は娘の体調が優れないことを示して最後に大きく展開する。
 

f:id:chokobostallions:20201202061714j:plain

この二人がコースターに乗る長いシーンは意味深だ。白装束に見をまとう二人。母親は娘との縁を楽しみ、娘は暗い表情。そしてついに最後、ここで娘は意識を失ってゆく。
 
最後に娘は母親に望みを語る。病魔に侵された薬物中毒の娘が母親に求めたことは何か?娘が母親の耳元でささやくシーンにセリフはない。最初二人の姿を俯瞰の位置からカメラが捉える。それはまるで神の目線だ。金髪の母と黒髪の娘。天使と悪魔の対峙がごとき印象的なシーンだ。娘は母に何を求めたのか?(ネタバレになるのでこれ以上書けない。)
 

f:id:chokobostallions:20201202062235j:plain

なんという感動。なんという残酷。この二人の関係の真意は最後の最後でおぞましいシーンを見せつけて終わる。母親が服を脱ぎ、倒れかかる娘を抱いて湖に向かう美しいシーン。この美しいシーンを最後に見せつけるとは、作者の芸術センスがどれだけ優れているか知らしめる。
 
ドラマは母性について深堀りしている。土居健郎教授の「甘えの構造」を思い起こせば、西洋の文化で自立を求める歴史と日本の母親に対する違いをぼやかせる。映画とはまるで関係ないことだが、この映画に「甘えの構造」がダブる。甘えることを許されない子供の現実。それは親子関係とかいう狭い範囲ではなく、人と人との関係がどんどん薄れてゆくことを暗示するように感じさせる。
 
コロナエフェクトの前に作られた作品でありながら、ポピュリズムや自国中心主義が国家レベルで分断を加速させる。これは文化や民族のレベルで失われてゆくものを想像させる。
 
 

にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村

にほんブログ村 グルメブログ 日本全国食べ歩きへ
にほんブログ村

PVアクセスランキング にほんブログ村
 

ブログランキング・にほんブログ村へ

 
 ★