dalichoko

しょうもない

時の面影 The Dig

 
 
朝起きてスイッチを入れてキャリー・マリガンが出てる映画と知ってほかの予定をキャンセルして一気に見てしまった。実話に基づく物語。
ドイツとの戦争を直前に控えたイギリスの郊外。夫を亡くし残された妻(キャリー・マリガン)と息子の住む広大な敷地で展開する発掘作業。そこから発掘されるバイキング時代以前のアングロ・サクソンの時代に芸術と文化が存在したことが立証される、という物語。その発掘に寄与する人物がレイフ・ファインズ演じるバジル・ブラウン。この人物はごく最近まで全く無名だったが、この歴史的発掘をした人物として長い時を経て脚光を浴びることになったようだ。

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このように書くとまるで味気ない話しだが、実はとても奥が深い。まず主人公のキャリー・マリガン演じる貴婦人は病魔に侵されていて余命がない。そんな中、この大事業をリードする。そして発掘作業を命じた人物が名もなき採掘者バジル・ブラウン。冒頭のいくつかの美しいシーンでバジルが自転車に乗ってこの敷地に入るシーンが実に美しい。この初老の紳士が採掘する姿勢に感動する。英国紳士は貧しくても紳士だ。採掘作業もネクタイをしている。戦争が近づく環境でありながら、この城に従事する人物たちの毅然とした態度の見事さ。英国の階級社会を強く印象づける。採掘中にバジルが生き埋めになるシーンには驚かされた。ここで話しが終わるのかと心配するほどの衝撃。

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途中、この採掘作業が大事業であることが知れると、大英博物館から専門家がやってきてバジルらの作業を邪魔しはじめる。これが国家的な事業であり、当時の歴史を塗り替える大事件だったのだ。そしてそのメンバーに若い夫婦がいて、その一人がなんとリリー・ジェームスだった。キャリー・マリガンとリリー・ジェームスの共演と聞くだけでこの映画の価値は上がるが、物語もまたイギリス映画らしく複雑だ。リリー・ジェームスの夫は採掘仲間とゲイの関係にあることに気づき孤独に陥る。それを救うのがレイフ・ファインズ演じるバジルであり、キャリー・マリガン演じるミセス・プリティの弟ロバートだ。彼女と彼が恋におちてゆく。

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この大事業に並行して戦争状態はいよいよ進み開戦へと向かう。ロバートは空軍に入隊し、リリー・ジェームス演じるペギーと別れを惜しむ。ロバートが撮り続けた写真が最後にテーブルいっぱいに並べられて感動する。この物語は必ずしもハッピーではない。戦争とう状態を想像すれば、出会いはむしろ悲劇的だ。報われぬ恋。残り少ない命のはかなさ。こうした目に見えない”状態”をこの映画は美しい映像で包み込む。それはまるでテレンス・マリックの『名もなき生涯』を思わせる。この映画にもマリックが多様するマジックアワーと思しき自然光のような美しさが画面に溢れ出す。この美しい映像が歴史の影に隠れた名もなき人々に優しく光を照らすようだ。

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この映像を見てテレンス・マリックを連想したことで、いまこの映画がリリースされた重要な意味が伝わってくる。今まさに我々は世界中を襲うウィルスという戦時下にある。その中で密やかに愛しあう人々の姿に救いを示そうとしているのではないか。少年は母親の命が短いことを知っていて夜も眠れない。バジルはその少年に「人は必ず失敗する」と諭すシーンもまた感動的な。否定も肯定もしないバジルの姿勢は自らの執念深い採掘作業の歴史が失敗だらけだったことを吐露しているようだ。そして人類もまた何度も同じ失敗を繰り返す。

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とにかく俳優がどれも素晴らしい。そして美しい。キャリー・マリガンの老いを感じさせるような病的な演技や、レイフ・ファインズに包容力ある演技などどれも素晴らしいが、バジルの妻モニカ・ドランの田舎の奥さんぶりが最も印象的だった。採掘に命がけの夫に嫌味も言わず健気に励ます姿勢にもまた感動する。
 

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