町山智弘さんが「アパートの鍵貸します」の解説をされている映像を拝見した。
その中でビリー・ワイルダーがハリウッドの映画システムで予定された映像をムダなくきっちり撮りきる、という映画監督だったことを教わる。
話題を変えるが、例えば黒澤明監督などは入念なリハーサルで俳優に演じる人物そのものになりきらせて、複数のカメラで俳優を捉える。そして偶然に生じたシナリオにない演技やシーンを採用することが時々あったと聞く。「天国と地獄」の山崎努さんが演じるラスト。面会室に漂うとてつもない緊張。山崎努さん演じる犯人が金網に手をかけて絶叫する。シナリオにはこの後のワンシーンが予定されていたそうだが、映画は山崎努さんの絶叫を残し、三船敏郎さんの顔が面会室の鏡に映されて終わる。衝撃的なラストだ。
その後ヌーベルバーグなどの影響で、映画はスタジオを飛び出しロケ中心になる。今でこそ映画はフィルム撮影をしなくなったが、当時は大きなカメラを背負ってロケーションすることがどれだけ大変だったことか。
しかし町山智弘さんは、映画がロケからスタジオに回帰しているという。それはアニメーションやSFXをさす。
確かに今年の映画興行を見ても、上位10作品のうちアニメやSFX系ではない映画は1本ぐらいだ。「天気の子」から始まって「アラジン」や「トイストーリー4」と、いずれもアニメかCGである。
ビリー・ワイルダーはもともと毒のある暗い映画を撮る監督だったが、それは彼がユダヤ人で母親をアウシュビッツで殺された記憶があるからだそうだ。そして「アパートの鍵貸します」では、キューバのカストロ(共産主義者)をほのめかしつつ、資本主義社会の奴隷的な部分をこの映画で表現しようとしたという。そして冒頭のシーンはキング・ヴィダーの「群衆」を真似ている。
アニメーターの仕事がどれほど厳しい仕事か、という噂を聞くと、大きな映画システムの中できっちり仕事をするという行為の主従関係は奴隷制度にも近いかもしれない。
映画興行で大ヒットをする向こうには、どれほどの汗と涙がこぼれているかを想像してしまう。
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