dalichoko

しょうもない

ザ・ファイブ・ブラッズ (Netflix)

町山智浩さんのラジオ番組を聞いて、さらにBSの特集番組で小林克也さんとの対談で、この映画について触れていた。ひとつはマービン・ゲイのこと。映画の中で彼のデビュー曲がさり気なく使われているのだが、”Inner City Blues”という曲は「金がなくて税金が払えない」という貧困を歌った曲で”What's Going on ”もベトナム戦争の曲だ、ということと、映画の中に出てくる5人のメンバーがテンプテーションズのメンバーの名前に重ねている、という話題に興奮する。

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テンプテーションズ

 

というと尋常ではいられない。初めて自宅にあった「マイ・ガール」のEPレコードは宝物だ。初めて家のレコード盤で聞いた曲。この宝物。

そして映画は宝物(トレジャー)探しのドラマだ。ベトナム戦争中に見つけた金塊を50年ぶりに探しに行く物語。

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ハノイ・ハンナというプロパガンダ放送を担った女性や、当時娼婦だった女性と黒人の兵士の一人が再会するなどのイントロデュースを踏まえ、5人は山奥へ金塊探しの旅に出る。途中で邪魔が入るは地雷を踏むわの大騒ぎで、目的の金塊を手に入れてもそれを持ち帰る途中で仲間割れがあったりして混乱し、それぞれのメンバーが死んでゆく。

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ベトナム戦争でウィリアム・カリーのソンミ村大虐殺の話題などを取り上げて、ベトナム戦争で彼ら黒人が言うまでもなくベトナム人にとって敵であることが強調される反面、この黒人たちの一部はトランプ大統領を支持している。祖国では英雄で敵地では悪魔のような存在として語られる中、彼らは金塊目当ての旅を続ける、というストーリー。

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これはかなり複雑だ。

祖国で彼ら黒人を英雄と称する歴代の大統領は誰一人戦争は行っていない。金のある白人は戦争に赴かず、貧しい黒人は戦場に駆り出されて死んでゆく。スパイク・リーはこれを単なる黒人差別とか偏見とか格差、という位置づけで終わらせようとしていない点に凄みを感じる。

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思えば30年前に彼が放った『ドゥ・ザ・ライト・シング』で、白人警察官が黒人を絞め殺すという衝撃的なシーンを提示した。これはまさに”Black lives matter”運動そのものを予言するような強烈なインパクトを残した。そしてまたこの映画で再び黒人差別やキング牧師の言葉を最後に置いて、スパイク・リーは彼の主張をブレずに表現している。

しかし映画は極めてポジティブに終わらせる。

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オーティスという元黒人兵士がベトナムに残した娼婦の娘。なんと彼女は黒人である。つまりオーチスとベトナム人娼婦の娘なのだ。そして最後にこの血の繋がりのある父と娘が抱き合って大きな感動を残す。この映画で唯一の救いであり、スパイク・リーの希望と受け取れる。

 

映画の中では、途中で金塊をめぐりフランス人(ジャン・レノ)が出てきたり、事実に近い現実が描写されていて面白い。ベトナム戦争ものにフランスが関与するシーンを織り込むのは重要である。『地獄の黙示録』でもフレンチ・プランテーションのシーンが加わって一層リアルとなった。そしてそれぞれの国の主張もまた大いなる齟齬があることも知らしめる。この映画に内包されている主張もまた同じで、複眼的だ。

 

スパイク・リーはすごい。黒人監督の彼は黒人であることになんの引け目も感じさせる全く卑屈になることがない。そして混乱に混乱を重ねて映画をぐしゃぐしゃにかき混ぜる、という手法もまた群像劇という意味で秀逸だ。最後にベトナム人で黒人の娘、という象徴的なシーンをたった一つ残して映画を終わらせるというセンスも見事だ。

 

素晴らしく面白い映画だった。

 

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