dalichoko

しょうもない

雨と詩人と落花と 葉室麟著

 またまた義母からの推薦図書が届きました。今回は葉室麟さんの詩人についての作品。
大分の日田出身の有名な詩人、広瀬旭荘と妻の物語。私この人のこと全く存じ上げませんでした。

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亡くなった葉室麟さんの作品は「影ぞ恋しき」や「草笛物語」「秋霜」あるいは「蒼天燃ゆ」など、どれも涙なくしては語れない傑作ばかり。そして知られざる歴史の小さなすき間から見えるものをじっと見据えるような作品が多く、感動に感動が重なります。主人公だけでなく、主人公に連れ添う妻や子供たちの穢れなき純真な心持ちもまた葉室作品に共通する点ではないでしょうか。
 
時は天保3年頃。豊後日田に広瀬淡窓が開く咸宜園という私塾があって、年の離れた実の弟でのちに養子になる広瀬旭荘が咸宜園を引き継ぎます。彼は短気で、前妻と別れた理由もいまで言うドメスティック・バイオレンス。そこに17歳の松子という少女が後添えとしてやってくるわけです。松子は必死に旭荘の怒りがどこからくるのか考えて、怒りを鎮めようとする反面、夫である旭荘を飛び越えて客人に意見する強気な面も兼ね備えます。そんな松子に旭荘は怒りをあらわにして暴力を振るいます。それでも松子は夫を理解しようとする。このあたりのことは、ややコミカルに描かれてますね。葉室さんの真骨頂。
 
旭荘の学問が評価されて大阪へ呼ばれたり、さらに江戸まで出て生活するに至るまで、様々な世相の変化も示されます。大塩平八郎の乱がそれですね。とにかく飢饉が広がる時代で、京都鴨川が餓死者の死体で堰き止めされるぐらい。インフレですね、きっと。こうした状況に無策の幕府に対し大塩平八郎は反乱をお越し、自ら爆死してまでその主張を貫こうとする。貧困というパンデミック
 
松子と子供を連れて江戸へ出た旭荘ですが、政治的に利用されることを嫌い、なかなか出世にありつけない。そんな中、松子が病に臥せってしまいます。病を癒やすのに金がいる。そのために自らの主張を曲げて金のために書画会に出ますが、どうしても迎合できない。不器用なんですね。しかし病の松子は夫の性質を理解して、夫の苦悩に感謝します。こうした妻が夫を理解する、というのは、もう、江戸時代でなくなったのではないでしょうか。
 
松子は若干29歳という若さで一粒種の幸之助を残して亡くなってしまいます。
 
「なぜひとはおのれにとって最も大切なものを粗末に扱ってしまうのだろうか。」
 
と旭荘は自問します。この当たり前の幸せを甘んじることの愚かさをこのドラマは見事に演出します。純粋に目指す学問が政治利用される、そうした背景もまた細やかに描かれていて、社会情勢と小さな夫婦のドラマが壮大なスケールとなって描写されていきます。
 
葉室麟さんの小説に共通する優しさと強さ(頑強さ)は、江戸時代まで残された日本人の魂そのものかもしれません。貧すれば鈍するの例えではありませんが、政治の無策まどの時代も同じで、果たして貧しさの中で自らを失わずに生きていくことができるのか。これまさに現代にも伝わる精神性を示してないでしょうか。
とても感動しました。
(=^・^=)
 

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