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しょうもない

生きのびるために The Breadwinner

The Breadwinner”は「稼ぎ手」という意味だろうか。日本語タイトルは『生きのびるために』。
奇しくも先ごろアフガニスタン政権がタリバンに制圧され、政権交代となったこの時期に、カナダの児童文学者デボラ・エリス(2001年)の原作を2017年に映画化したものだ。まさにタイムリーな映画だ。アカデミー賞にもノミネートされている。
アフガニスタンを外側から描く戦争映画は多く作られてきたが、内部から掘り下げる映画はなかなかない。イスラム原理主義を表現する映画もそれなりに作られてきたが、例えば『パピチャ 未来へのランウェイ』の悲惨さなど、この映画の比ではない。
主人公はパルヴァナという少女。彼女が男として稼ぎ手になるという話だ。

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彼女は父親と路上でものを売っている。そこに若い兵士がやってきてクレームをつける。この少年兵士は、パルヴァナの父親が自分の教師だったことに気づきながら「女が外に出てはいけない。」として、父親に立つよう命じる。銃で脅された父親が立ち上がると、片足がない。この衝撃的な冒頭のシークエンスは、平和ボケして政府に情報操作された愚かな日本人にはまるで理解できないことだろう。

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父親が刑務所に連れ去られたパルヴァナの家には母親と姉と小さな弟しかいない。兄はすでに亡くなっている。そしてここでは女性が外出することが許されない。イスラム原理主義を貫くタリバンは、この家族の生活を厳しく締め付ける。そこで苦肉の策でパルヴァナは自らの長く美しい髪を切り、男として生きる決意をする。ここは実に微妙な表現だ。彼女が本能的にジェンダーであるのではなく、必要に迫られて男を演じきるしかないという切迫感がここにある。

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男の姿で外出できるようになって、彼女の生活は一変する。そして教師である父親から教わった読み書きの能力と、物語を想像する力が彼女を様々な局面で救ってくれる。知性が暴力に勝るのか?というテーマも重なっている。

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路上で物売りをする彼女に、手紙を読んでほしいというタリバンの兵士がやってくる。彼女は手紙を彼に読んであげる。このシーンがとてもいい。最も印象的なシーンだ。手紙を読むパルヴァナを横からカメラは捉え、大きな体の兵士がその向こうでりんごをむいている。そして手紙の内容が兵士の妻の死を示すくだりで、手に持ったりんごをむくナイフの動きが止まり、カメラの視線が上にパンして、兵士の表情を写す。彼は泣くでもなく無表情でりんごを見つめる。パルヴァナはひとこと慰めの言葉をかける。『山の郵便配達』という中国の映画があって、目の見えない老婆に手紙を読むシーンがなぜか思い出される。

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この兵士のおかげで、刑務所に拉致された父親を救出するきっかけをつかむパルヴァナ。ここから怒涛のような展開となり、彼女の想像する物語の主人公とともにラストへと向かう。彼女と同じように男装をする友達のシャウジアと。20年後に海で再会することを約束して終わる。

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なんというタイムリーなドラマだったことか。
これが本当に同じ地球のどこかで起きていることかと思うと胸が苦しい。そして20年前に作られた原作から20年経過して、果たしてこの少女二人は再会できるのかをも想像させる。タリバンのことをあまりにも厳しく表現するこのドラマが、政権交代の後、世界でどのように評価されるのか?あるいはタリバンはこの物語をどのように読むのか?想像は膨らむばかりだ。
ダルデンヌ兄弟の『その手に触れるまで』という映画も重なる。思想統制が特に子供へ影響することの恐ろしさ。日本人はこれを自分のことと感じないだろうが、中国や韓国やあるいは北朝鮮以上に日本が思想と統制されていることに気づいていない。それは教育という分野で完全なる右よりが進んでいることで語られる。あらためて日本の先行きを不安に感じさせる映画だった。
あるいは『プロミシング・ヤング・ウーマン』や『Swallow スワロウ』など、一連の女性蔑視に対する意思なども感じさせるが、そのすさまじさは比類がない。女性であることで外出も許されない社会。女性には食料も売らない売ることが出来ないという原理主義の仕組みを目の当たりにする。
ウルフウォーカー』(今はなき恵比寿で鑑賞)で話題を集めたアイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーン・サルーンが問う世界に残存する神話的現実をここでもまたリアルに示している。極めてクオリティの高い取り組みだ。
 
 
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