生きのびるために The Breadwinner
”The Breadwinner”は「稼ぎ手」という意味だろうか。日本語タイトルは『生きのびるために』。
奇しくも先ごろアフガニスタン政権がタリバンに制圧され、政権交代となったこの時期に、カナダの児童文学者デボラ・エリス(2001年)の原作を2017年に映画化したものだ。まさにタイムリーな映画だ。アカデミー賞にもノミネートされている。
アフガニスタンを外側から描く戦争映画は多く作られてきたが、内部から掘り下げる映画はなかなかない。イスラム原理主義を表現する映画もそれなりに作られてきたが、例えば『パピチャ 未来へのランウェイ』の悲惨さなど、この映画の比ではない。
主人公はパルヴァナという少女。彼女が男として稼ぎ手になるという話だ。
彼女は父親と路上でものを売っている。そこに若い兵士がやってきてクレームをつける。この少年兵士は、パルヴァナの父親が自分の教師だったことに気づきながら「女が外に出てはいけない。」として、父親に立つよう命じる。銃で脅された父親が立ち上がると、片足がない。この衝撃的な冒頭のシークエンスは、平和ボケして政府に情報操作された愚かな日本人にはまるで理解できないことだろう。
これが本当に同じ地球のどこかで起きていることかと思うと胸が苦しい。そして20年前に作られた原作から20年経過して、果たしてこの少女二人は再会できるのかをも想像させる。タリバンのことをあまりにも厳しく表現するこのドラマが、政権交代の後、世界でどのように評価されるのか?あるいはタリバンはこの物語をどのように読むのか?想像は膨らむばかりだ。
ダルデンヌ兄弟の『その手に触れるまで』という映画も重なる。思想統制が特に子供へ影響することの恐ろしさ。日本人はこれを自分のことと感じないだろうが、中国や韓国やあるいは北朝鮮以上に日本が思想と統制されていることに気づいていない。それは教育という分野で完全なる右よりが進んでいることで語られる。あらためて日本の先行きを不安に感じさせる映画だった。
あるいは『プロミシング・ヤング・ウーマン』や『Swallow スワロウ』など、一連の女性蔑視に対する意思なども感じさせるが、そのすさまじさは比類がない。女性であることで外出も許されない社会。女性には食料も売らない売ることが出来ないという原理主義の仕組みを目の当たりにする。
『ウルフウォーカー』(今はなき恵比寿で鑑賞)で話題を集めたアイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーン・サルーンが問う世界に残存する神話的現実をここでもまたリアルに示している。極めてクオリティの高い取り組みだ。
★
貼りました。みつけてみてくださいね。