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しょうもない

ブラックボックス 砂川文次

第166回芥川賞受賞作『ブラックボックス』を文藝春秋で読む。著者は砂川文次氏。

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極めて細やかで胸が痛くなるような表現。
主人公のサクマはメッセンジャー。自転車で運ぶシーンから始まる。雨の交差点に突っ込んでゆく主人公の近くを白いベンツが交差し転倒する。肉体的な心理状態を丁寧に描く。この表現に惹きつけられる。

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著者の砂川文次さん31歳は元自衛官で公務員。受賞インタビューから天才でありながら相当な努力をされている方なのが伝わる。言葉の端々に怒りと強さがある。自衛官という「あちら側」の立場にありながら、その”むかつき”はこの国がこのドラマの主人公の本当の生活や感覚に寄り添えていないことを主張する。

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メッセンジャーの一日を終えて同棲する円佳がいる家に帰り営みを終えテレビで野球観戦するシーンで話しがいったん終わり、その後少し間をあけて「一日が終わった」という書き出しで次の話しが始まってゆくあたりのつかみは見事だ。黒澤明監督が『生きる』のシナリオを書いているときのことが重なる。ここから全く違う世界が進んでゆく。
 
選評でも高く評価されていて、島田雅彦さんが「日々の苦労が報われないプロレタリアの絶望がやがて暴力となって噴出する。」とか吉田修一さんは「中上健次の『十九歳の地図』の系譜」といい、あるいは川上弘美さんが「最後までさぼらなかった」ろか、山田詠美さんが「青春の殺人者的要素」というような評。キレる主人公の心情をうまく時代に重ねてゆく。
 
これは大変なことになったと思う。この小説を読めば明らかに現代社会の貧困とその先にある暴力性が透けて見える。主人公がある種の肉体の持つ感性に基づいて行動することを多くの読者は理解するだろう。コロナやUberなどのツールを使いながら、殺意に近い暴力性を持つ主人公の頭の中が「白くなる」瞬間を説明する。タイトルのブラックボックスに比して、彼の頭は時々真っ白になる。白くなった脳は意識を離れ、肉体で反応するというわけだ。こうした作品は広く支持されることだろうと思う。しかしその先にあまりにも強い主張は敵を作り対立構造をもたらすだけだ。とても強い表現の作品の魅力に惹き込まれてゆくものの、その先のまたその先のを懸念する。
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