100万円で家を買い 週3日働く 三浦展
100万円で家を買い 週3日働く 三浦展 光文社新書 2018/10/30
たまたま家に置いてあった本をチラリと読んだらそこそこ面白いので記録することにした。先に本音を言うと、この本の全てが面白いとかためになるという類のものではない。ビジネス書的なものは所詮作者の自慢話だ。そして同じことを何度も繰り返してページを増やしている。世の中で本当に必要な本などそれほど多くはない。
日本の住宅事情の在り方が大きく変化を求められているような気がする。そのことを考える一助にはなる。一助にはなるが、実行するかどうかは別だ。何度もいうようだが、賛同できるところとできないところがあって、特に自慢げな表現が時々でてきて鼻につく。
正直言うと嫌いだ。(著者の見た目に気に食わん)
何しろパルコ出身とくれば、その著者が活躍してきた時代が読み取れる。それは後で指摘しよう。
本書は4部構成になっていて、タイトルはその一例だ。どちらかというとリノベーションのアイデアを持ち寄る内容となっている。その中で著者は盛んに「再・生活化」という言葉を使う。これまでの生活様式を見つめ、新たなアイデアを育もうというイメージだろうか。
第1章 生活実験
この中にタイトルのケースが紹介されている。横須賀の山の上に古民家を買ってリノベーションするという立花佳奈子さんの事例紹介だ。古いバスを買ってカフェをしたりもするらしい。
吉祥寺と井之頭の「アンモナイツ」というシェアハウスの箇所で、堤清二氏の話題が出てくる。堤清二氏は、ある種の時代を生み出した方だ。その堤氏と著者の対話で「ブランドを否定する」というお話があって、ここは興味深い。まさに無印の世界だ。ブランドを否定したブランドとは、まさに柔軟でしなやかで自由な世界。これもまた堤氏が提唱した世界だ。
南房総に8,700坪の里山を購入して子供のために地域に溶け込もうとする方のお話も面白い。
さらに、「第2章 昭和の官能」「第3章 郊外の夜の娯楽」と、いかにも俗っぽい話題が続くように見えるが、本当のテーマは「つながり」だ。第2章の“官能”という言葉の対岸には男性的な意欲が想像されるが、近ごろは女性が中心となって遊郭を探索する、というようなこともあるらしい。昭和をイメージするポスターを描く吉岡里奈さんは、横尾忠則さんを尊敬している。第3章でも名古屋円頓寺商店街が紹介されていた。
最後の「第4章 新旧をつなぐ」は、どちらかというと設計者の紹介のように並べられているが、そこには都市部の忘れられた古い建物をリノベーションして、そこに人が集い笑顔が広がるというイメージを紹介する。例えば中央区などは、行政が積極的に住宅開発を奨励して、2000年に7万人まで減った人口を15万人以上に回復させた事例に重ねて、せっかく増えた人口を無機質な関係に止めず「つながり」を持たせようという狙いは悪くない。
著者は明らかにバブル時代を経験しているマーケッターだ。これはかつてセゾンがマーケティングを徹底的に行い、コピーライターを輩出したイメージ戦略だ。従ってこの本におけるどの事例も明るく楽しいイメージを読み手に突き付ける。つまり成功事例を陳列しているだけなのだ。これぞまさにバブルだ。
これだけ時代が変遷し、マーケットもくそもない時代に、相変わらずバブルの勢いで自らの自慢話を繰り広げる本書を受け入れることは到底難しい。
本来なら、こうした成功事例に加えて、都市計画や継続性の問題、あるいは人口動態を踏まえた展開を望みたいところだが、所詮この本の著者はマーケットを示すことしかしていない。
行き場のない貧困が蔓延している世の中に、このような本で経済を喚起しようという狙いはお門違いというものだろう。世界で唯一のデフレ国としてはいささか呑気すぎだ。
貼りました。みつけてみてくださいね。