愛すべき夫妻の秘密 アーロン・ソーキン
驚くことに、ニコール・キッドマンがルシル・ボールを演じている。夫役はバビエル・バルデム。キッドマンはアカデミー賞にノミネートされている。確かに驚くべき演技だ。ルシル・ボールについてはこれまでほとんど知らなかったが、たしかに自分が子供の頃テレビでよく見かけた。ドラマにお客の笑い声が重なる、という構成はその後「奥様は魔女」などにつながる。そういえばあれもニコール・キッドマンがサマンサを演じていた。偉大な女優だ。
この『愛すべき夫妻の秘密』は、ルシル・ボール主演のライブテレビで、毎週驚異的な視聴率を得ていたらしい。ルシル・ボールがもともとRKOという大手映画会社をクビになって、ラジオドラマからテレビにスカウトされたことを初めて知る。
ここでは、ボールがすでに人気スターになっているときのことを中心に描く。一週間の行程を時系列に追う、という構成だ。まず月曜日の本読みから始まる。スタッフが険悪な雰囲気で話をするところに大スター、ルシル・ボールが登場するシーンが印象的だ。
そして夫のデジ・アーナズや共演者との絶妙な関係が描かれる。ボールが次第に独善的になってゆく過程を追う。
しかしタイトルにある通り、この映画は夫婦の映画だ。ラティーノである夫を強行に共演させたり、自分が妊娠してもドラマに出続けると宣言したり、それまでタブーとされていたシーンをスポンサーに対しても押し通す。この頑なな姿勢がテレビで見たルーシーとはまるで違うことを知らされる。そして夫に対する姿勢も強気だ。ルーシーが過去に共産党員だった、という記事を捏造されて追いつめられる展開も見ものだ。ルーシーをデジが何とか救おうとする最後の裏技がすごい!
結末は、夫の浮気を巡るやりとりで破局して終わる。おしどり夫婦の破局。それは家でも仕事でも、ずっと夫を拘束したいボールと、それにうんざりしながらもドラマを成功させたい夫、という緊張した関係だったことが語られる。
コメディの世界がいかに厳しい緊張感の中で持続されていたかを描くドラマだが、当時タブーとされていた夫婦表現や人種の偏見を強行突破しようとする姿勢が心を打つ。心を打つのは、そうした強い意思とは裏腹に、緊張した関係で愛情がまたたく間に崩壊することの悲劇的な現実である。誰にでも終わりはくる。この二人の関係ははじめから終わりが始まっていたとも言える。
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