すばらしき世界
素晴らしい映画だった。
兎にも角にも役所広司さんの演じる純粋そのものの三上という人物がかわいらしく魅力的だ。九州出身で直情型のこの男はまるで寅さんだ。彼は人生のほとんどを刑務所で過ごしている。そしてシャバに出てきて職に就こうと努力するが噛み合わない。失効した運転免許をとろうとするシーンは劇場を大爆笑に包む。
そして彼は真正直だ。通りがかりに会社員がヤクザに脅かされているのを見過ごせない。そしてまた暴力に訴えるという悪循環を繰り返す。彼の生い立ちは私生児として身ごもった母親にも捨てられた子。この少年が大人になって就く仕事は限られる。そして言うまでもなく貧困の唯一(といっていい)受け入れ先はどこか?
正直に生きることの難しさ。逆説的にいうと誰も正直に生きていない。この主人公のように。見る側はこの愛らしくも耐えられない直情型の主人公に同情はできても彼のように生きられないジレンマを感じながらドラマを追い続けるはめになる映画だ。
この彼を取材してドキュメンタリーにしようとするメディアもまた冷酷だ。正直な彼が母親と再会するドラマを演出しようとするが、思うようにならない。実在の人物を描くこの映画は、この人物をめぐるそれぞれの内実を深くえぐる傑作だ。本人を置き去りに、それを伝えようとするメディア。彼を支援しようとする人たち。そしてこの映画を見る我々もまた三上という人物を肯定も否定もできないという恐怖。
それでも我々はこれを笑って見過ごす以外に生きる道はないのだろうか。
(=^・^=)
★
★